宇佐市(うさし)
〜脇役から主役へ 大分味一ねぎ〜 |
Vol.37 |
大分県の北部に位置する宇佐市は、広大な平野部とともに、長く穏やかな海岸線、緑深い森林、豊かな河川など自然景観に恵まれたことから、人々の営みが古来より盛んに行われ、古墳群や石橋群、国の重要文化財に指定されている寺院など多くの文化財が点在しています。なかでも、宇佐神宮は全国八幡宮の総本宮であり、本殿の八幡造りは国宝に指定されています。
また、広大な平野の肥沃な土壌や山間部の斜面を利用した棚田での農耕により、県内一の米と麦の産地になっており、農作業の体験や地域の歴史・自然に親しむグリーンツーリズムが活発に行われています。今回は、こうした自然と歴史が融合する宇佐の大地で、小ねぎの土耕栽培に取り組む岩武俊幸(いわたけとしゆき)さんに話を聞きました。
青年期にサラリーマンをしながら兼業農家として米の生産やライスセンターを運営していた岩武さんは、35歳で一念発起、専業農家の道を選びましたが、米の転作が奨励されはじめ、いきなり米に替わる転作物を模索する必要性に迫られました。
転作物を決めかねていたなか、市や農協から小ねぎへの転作を薦められ、昭和63年頃から小ねぎの土耕栽培に取り組み始めました。当初は、地域の先輩などからの指導を受け、試行錯誤しながらの取り組みでしたが、なかなか出荷できる品質に育てられなかったようです。土耕栽培による小ねぎは、ハウス栽培により通年出荷が可能な反面、年3回程の収穫に耐える高い地力を持つ農地での栽培が必要だったのです。
米とは違う小ねぎに適した土づくりの必要性を痛感した岩武さんは、良質な土づくり=良質な小ねぎづくり、との想いを持ち、ねぎの根の栄養となる堆肥を1年間かけてつくるなど、化学肥料や農薬に頼らなくてもよい土づくりから再度取り組み始めました。
想いを込めた土づくりにより、農地の安全性の向上に努めている生産者として、エコファーマの県知事認定も受け、今もなお、奥さんの百合(ゆり)さん、後継者の敬(たかし)さんとともに、水やりや追肥などの栽培管理に手間を惜しまず、ねぎの豊かな香りと味の素となる土づくりを追求しています。
現在、JAおおいた大分゛味一ねぎ˝生産部会の部会長としても活躍される岩武さん、「組合員のトレーサビリティーの徹底、品質の均一化などに努めることで、生産者としての人間性を見ていただき、消費者に支持される産地になりたい。また、薬味としての脇役である小ねぎが、主役となれる゛ねぎ焼きやねぎしゃぶ˝など食の提案もしていきたい。」と胸の内を語ってくれました。
坐来大分では、10月19日から11月7日まで宇佐フェアーを開催し、メニューの食材に「大分味一ねぎ」もご用意していますので、ご来店をお待ちしています。
〈伝承料理研究家 金丸佐佑子さんのお話〉
小ねぎ料理にはどんな物がありますかと尋ねられたら、「汁物や麺つゆの中の薬味。おがみ(鰯ずし)等魚ずしのすし飯に混ぜ込む薬味、魚介類とのぬた」等。伝承料理では殆どが脇役の薬味です。生産地に住む私ですら薬味の域を脱していません。
数年前、小ねぎ生産農家の友人と話した時のことです。私が「小ねぎは本当に名脇役ね」誉めそやしましたら、彼女曰く、「時には主役、せめて準主役位にはなりたいわ」と。主役になれば注目されるし、消費量も増えるのにとの思いもあったようですが。
先日、私のところに大勢のグルメさんが大分の食を求めて集まりました。人手も器も足りないということで、メニューは手抜きの「ねぎしゃぶ」に。
豊前海(ぶぜんかい)の鱧(はも)のあらだしで20cmに切った小ねぎのしゃぶしゃぶです。カボス醤油と出来たての柚子ごしょうで食べていただいたのですが、想像した以上の好評を得ました。これは、完全に彼女の期待していた主役です。
簡単で美味しい、そしてねぎに含まれているアリシンはビタミンの吸収を助けます。だしは鱧にこだわらず、何でもいいと思うのです。
更に最近は、若手後継者によって、新しいレシピが開発されています。「ねぎ焼き、ねぎごはん、ねぎケーキ等」小ねぎを冠にいただく主役の料理が育ち、好評を得ている様子。伝承の域をなが〜く越えられない私から見たらビックリするようなレシピでもありますが、育っていくことは、本当に嬉しいことです。
大分の小ねぎは根っこも元気ですから、捨てることなく、これは「てんぷら」に。
小ねぎ料理は究極のエコ料理でもあるのです。名脇役からエコ時代の先端を行くトップランナーに変身。将来が楽しみな食材だと思いませんか。
総合監修
生活工房゛とうがらし˝金丸佐佑子(平成21年10月)
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収穫を楽しみにしている岩武俊幸さん
ビニールハウスでの土耕栽培
こだわりの土から育ち始めた小ねぎ
自然環境豊かな宇佐市
全国の八幡神社の総本宮 宇佐神宮
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