大分市 佐賀関町(さがのせきまち)
関いさき |
Vol.41 |
太平洋の黒潮と瀬戸内海の潮がぶつかり合う佐賀関周辺の海域は「速吸の瀬戸(はやすいのせと)」と呼ばれ、潮の流れが速く、餌が豊かな漁場です。この海域周辺で獲れる「関あじ」「関さば」は全国的に有名ですが、今回は、これから夏場にかけて旬を迎える佐賀関のイサキ、通称「関いさき」を紹介します。
早朝の出荷時間、大分県漁業協同組合佐賀関支店を訪問し、目利きに携わって20年以上のベテランの渡辺浩治(わたなべこうじ)販売課長に、「関いさき」の特徴や地元での料理法などを教えていただきました。
「関いさき」は、餌が輸送中に胃袋で腐ることを防ぐため、コマセを使わずに、疑似餌かゴカイのみを使用し、一本一本丁寧に釣り上げられます。その後、漁協職員が魚を見た目の大きさで漁業者から買い取る「面買い(つらがい)」という方法で、魚に手で触れることなく、いけすに移動、1日養生させ、出荷する間際に活け締め(魚のせき髄切断、血抜き)を行います。こうした、鮮度にこだわった独自の取扱い方法は「関あじ」「関さば」と同様なことから、「関いさき」と名付けられています。
イサキは、本州中部以南の海藻の多い岩礁に生息し、最大50cm近くまで成長します。地元ではハンサコと呼ばれ、親しまれていますが、麦の穂が出るこの時期は、産卵前で腹回りがふっくらとし、脂がのり、特に美味しくなるため、麦バンサコとも呼ばれています。
イサキの身は白身で柔らかく、身離れがよいことから、塩焼きや煮魚、お吸い物が定番ですが、この時期の刺身は、脂がのり、地元では「関あじ」「関さば」に勝るとも劣らないといわれます。また、脂がのった皮を炙ったり、湯引きにすると、酒のつまみとして絶品とのこと。
食べると誰もが美味しいと言う佐賀関産の魚でも、最近の魚離れには苦戦していて、渡辺課長は、給食を通じた食育により、郷土の魚を愛する子どもを育てたいと考えています。
子どもが食べやすいよう、関あじをフライにして給食で提供したり、魚の骨の取り方などの出前授業や課外授業を受入れながら、学校給食関係者と一緒に食育をすすめています。こうした取組は、農林水産省が提唱し、文部科学省なども後援する「地域に根ざした食育推進協議会」の特に優れた食育の実践事例として認められ、平成20年に会長賞を受賞しています。
渡辺課長の話しをお聞きする中、「食育は長期的な取組にはなるだろうが、頑張っていきたい」との想いを強く感じさせられました。
佐賀関漁港直送の新鮮な「関あじ・関さば」とともに、旬の「関いさき」、是非坐来大分でご賞味ください。(要予約。天候等により入荷がない場合もあります。)
〈伝承料理研究家 金丸佐佑子さんのお話〉
十三年前のことです。ある著名な方が我家に立ち寄った折、「これからは、金丸さんのような暮し方にスポットライトが当る時代になるでしょう。」といわれ、びっくり致しました。平々凡々とした生活にスポットライトとは。「何故?」。理解できませんでした。
キーワードは、普通の生活が珍しくなるということらしいのです。私の周辺では昔からスローフードであり、スローライフ、地産地消の生活でした。この地の旬の山のもの、里のもの、海のものを組み合わせ、先人の知恵が伝わる料理法で食べる。当たり前のことでした。
最近の食事は季節とは無関係。世界中から調達された美味、珍味が幅をきかせています。ところが、私の住む漁師町では魚に関する限り養殖もなく、旬や地産地消が当り前なのです。今年も、昨年も、一昨年もずっ−と昔から、同じ時期、同じ漁場に魚はやってきます。魚はとても律儀です。
さて、話は少し変わりますが、釣名人の友人から三年前のこの時期に「関いさき」をいただきました。刺身にしたのですが、その味たるや絶品でした。友人がいうには、魚は卵を持つ直前が最高に美味しいとのこと。魚一切れを通して、季節、漁場、潮の流れ、そして魚の一生に感動し、感謝でした。日常の食事はこんなことの繰り返しです。
ついつい日常に埋没して大切なことを見失いがちですが、この大切なことを伝える。それは細やかなことの繰り返しであっても、生きることの楽しさ、自信、誇りにつながると思うのです。止まれ。少々、小難しくなりました。
結論は旬の味。「関いさき」を食べたいということです。
総合監修
生活工房゛とうがらし˝金丸佐佑子(平成22年6月)
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旬の関いさき(麦バンサコ)
好漁場の「速吸の瀬戸」
漁師さんが釣った魚を漁協のいけすで養生
水揚げ直後に活け締め
トラックの荷台まで流れ作業
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