熊本県や宮崎県と隣接し、国指定史跡・七ツ森古墳で知られる竹田市菅生(すごう)地区で「卯野(うの)農場」を営む英治さんとれい子さんご夫妻を訪問しました。笑顔が素敵なご夫妻は、「自然に逆らわず、自然と共に生きる農業を」をモットーに、亡き父・英明さんが土台を築き上げた農場を盛り上げています。
現在、長芋をはじめ、ゴボウ・キャベツ・白菜・大根・スイートコーンなど多品種の野菜を延べ70haという広大な土地で栽培しています。菅生地区は日中と夜間の気温差が大きく、火山灰の土壌のため、特に夏場のスイートコーンづくりには最適で、宮崎県西都市に次ぐ九州第二位の産地になっています。
最盛期を迎えているのが、長芋やゴボウ、切り干し大根です。寒風の中、天日干しされた切り干し大根は、まばゆいほど白く甘味があります。また、土から掘り起こされたばかりのゴボウは、香りが高く、長さも1mほどあり、美味しいきんぴらゴボウやかき揚げなどを想像させてくれます。
本命の長芋は、昨年の猛暑など天候不順から小ぶりで、美味なムカゴの付きも悪く、素人から見ると立派な長芋ですが、ご夫妻の納得いく長芋には育ったなかったそうです。今年こそは、納得いく長芋にしたいと、苗を大切に育てていました。
長芋は、ヤマノイモ科ヤマノイモ属で、中国の雲南省が原産とされています。晩秋から冬が旬で、芋の中では日持ちが良い方ではありませんが、唯一生で食べることが出来ます。ミネラルや栄養成分のバランスが良く、消化酵素も含んでいることから健康野菜としても重宝されています。糸を引くネバネバは、ムチンという成分で、オクラや里芋、納豆などと同じ糖タンパク質です。
食べ方は、すりおろしてトロロにしたり、千切りにしてサラダ感覚で食べたりするのが一般的ですが、ご夫妻のお薦めはお好み焼き。おろして生地に加えると、ふんわり焼き上がるそうです。また、のりで巻いて揚げて食べても美味しいそうです。長芋の見極めは、表面に張りがあり、皮が白っぽいものが鮮度が高いとのこと。日射で皮が黒ずむので、冷暗所で保存し、切ったらラップに包み冷蔵庫で保存した方がよいそうです。
10年程前、卯野夫妻と四姉妹の親子で農業に取り組む姿がドキュメンタリー番組として制作されました。FNSドキュメンタリー大賞のノミネート作品として農業を通した親子の絆が感動的に伝えられました。現在は、四姉妹とも嫁がれたため、地元で採用した従業員やフィリピンなどから受け入れた研修生と一緒に、厳しい自然環境に頭を悩ましながらも、真心を込めて、お客様に感動を与えられる野菜作りに励んでいます。
ご夫妻には3つの夢があるそうです。1つ目は、12人のお孫さんの中から跡継ぎを出すこと。2つ目は、今でも体験農場として子供の研修などを受け入れているものの、もっと多くの子供と親が生き生きと過ごせる自然公園を作ること。3つ目は、毎年、巣立っていく研修生に会いにいくこと。さて、どれが一番最初に叶うのか楽しみです。
卯野農場の皆さんが真心込めて作っている長芋、是非坐来大分でご堪能ください。(要予約。天候等により入荷がない場合もあります。)
■卯野農場(卯野英治・れい子)
〒879-6184 大分県竹田市菅生1227
TEL:0974-65-2037 FAX:0974-65-2107
〈伝承料理研究家 金丸佐佑子さんのお話〉
二十年程前のことです。当時私の勤務していた学校のグランドの隅に藪があり沢山の零余子(むかご)が採れました。野球部の練習を応援しながらむかごを採り、むかご飯を作る。それを振る舞うのが、この時期の私の定番行事でした。
ところが、転勤してきた野球部の若いコーチが大層なきれい好きで藪を見事に整地したのです。当然、むかごは採れなくなり、私の練習応援の回数も減りました。この話を部員の一人が自宅で話したらしく、後日、山芋堀り名人のおじいちゃんから学校へ立派な自然薯とむかごが届いたのです。皆さんの「スゴイ」「ヤッタ」「ウマイ」の感動の声を聞きながら、私は少々複雑でした。
立派な自然薯は珍しく、美味しい、天下一品間違いなし、でもそれは食べる側の声です。調理する側の私にとっては素直に喜べない心境でした。名人の掘った自然薯は根っ子の先まで掘り上げています。曲がりくねり、土を沢山抱いていますから、洗うのも、皮をむくのも大変です。更に、これを掘るのは大変だったろうな〜なんて思うと粗末には扱えません。
食卓に出た「とろろ汁」は味や堀り手の話で盛り上がり、調理した作り手の苦労なんて霞んでしまいます。私にとって割にあわないという思いが残ったのですが、二十年経た今でも懐かしく思い出すのは、やっぱり山芋の不思議なパワーですね。
最近は山芋もむかごも簡単に手に入る食材になりました。料理も工夫次第でどんどん広がります。かるかん、蒸物、煮物、揚げ物、山かけ、酢物等々。私の得意料理は長芋の皮をむいてポリ袋に入れ、粒が残る程度に麺棒で叩き、カボス醤油で食べる。料理とはいえない料理ですが、簡単で美味しい。是非、お試し下さいませ。
総合監修 生活工房゛とうがらし˝金丸佐佑子(平成23年2月)
|
卯野ご夫妻
長芋の大切な苗は3月に植え付け
眩しいほど白い切り干し大根
ゴボウも出荷最盛期
ハウスから路地へ移し替える前の葉物
|