今回は、大分県の中部に位置する別府市で江戸時代から伝わる温泉の噴気を利用した調理法「地獄蒸し」を紹介します。
別府温泉の歴史は古く、奈良時代に書かれた「豊後風土記」や「伊予国風土記」にも登場しています。別府市内には、別府・明礬(みょうばん)・鉄輪(かんなわ)・浜脇・亀川・観海寺・堀田・柴石の個性的な8つの温泉郷があり、総称して「別府八湯」と呼ばれています。その源泉数は約2,500箇所、湧出量は毎分約87,000リットルと共に日本1位。また、世界中にある11種類の泉質の内、放射能泉を除く10種類を有し、質・量ともに世界に誇る温泉都市です。
取材にお伺いした「地獄蒸し工房 鉄輪」は、地獄蒸し料理を手軽に体験でき、さらに温泉が味わえる「飲泉場」、「足湯」、「足蒸し」などを備えた施設です。
施設を運営するNPO法人 鉄輪温泉共栄会 代表理事の園上重一(そのうえ じゅういち)さんのお話では、「地獄蒸しは、高温の温泉から噴出する蒸気熱を利用した調理法で、食材をざるに載せ、「地獄蒸し釜」と呼ばれる約100度の蒸気が噴き出す釜に入れ蓋をするだけ。塩分を含む温泉蒸気で一気に蒸し上げるため、食材本来の旨味が閉じ込められ、ヘルシーでとてもワイルドな調理方法ですよ。」とのこと。
また、「地獄蒸し工房 鉄輪」の特徴については、「誰でも簡単に地獄蒸し料理を楽しむことができます。食材は、工房鉄輪でも販売していますが、近くのお店で自分が好きな食材を購入して持ち込むことも可能です。さらに、もち米やプリン、茶わん蒸しなどを持ち込んで蒸すといつもより美味しくなります。また、工房には「かまのばんにん」を配置していますので、やけどなどをすることなく安全に調理ができ、食材に応じた適切な蒸し時間をお知らせしますので、美味しく地獄蒸し料理を楽しむことができます。是非、別府鉄輪温泉と一緒に地獄蒸し工房鉄輪をご利用して下さい。」と笑顔でお話していただきました。
坐来大分では、10月11日から約1ケ月間「別府八湯めぐり」をテーマにした別府フェアを開催します。地獄蒸し料理を是非坐来大分でご堪能ください。
■地獄蒸し工房 鉄輪
別府市風呂本5組
TEL:0977-66-3775(地獄蒸し工房)
0977-66-3855(同施設内観光案内所)
http://www.gaku-shoku.com/
〈伝承料理研究家 金丸佐佑子さんのお話〉
若い頃の母の夢は別府に嫁ぐことでした。結婚相手への理想条件より嫁ぎ先を優先するなんて本当に突拍子もないことです。別府に嫁ぎたい理由は二つ。その一つは天然温泉にいつも入りたい。二つ目は大正から昭和にかけての別府にはお金持ちの別荘や観光客相手の旅館や料亭が沢山あるから周辺の美味しい食材が集まりご馳走がいつでも食べられる。庶民の生活で実現出来るとは思えないのですが母はそう信じていました。けれども残念ながら夢は実現出来ずしまいでした。
四十年前のことです。私は栗の渋皮煮作りにはまりました。毎年二十キロの渋皮煮を作るのですが、なかなか百点満点が取れません、技術はかなり上達していると思うのですが栗の品種、新古、大小等々 私の望むものが手に入らないのです。思いあぐねているとき友人から「別府の八百屋に行ってみたら。」の助言を得ました。三時間かけて栗のため別府を往復。母の言っていた通り別府にはピンキリの食材が揃っていました。数年間この時期通いつめ、ついに我が家の畑に栗の木を植え採れるようになって別府行きはやっと止まりました。
先日、地獄蒸しの取材に同行させてもらいました。温泉の地獄でただ蒸すだけ、なのに美味しいのです。昔の人がいっていた「旬の山のもの里のもの、海のものに不味いものはない。」熟練の調理技術もこった調味料も不要です。温泉と新鮮な旬の食材があればいいのです。別府にしか出来ない料理ですね。思わず母のいっていたこと思い出しました。そして料理の原点「シンプルイズベスト」を再認識したのです。
蛇足になりますが、別府に嫁ぐ夢破れた母の新婚旅行は別府温泉でした。地獄の前での記念写真が残っています。
総合監修 生活工房゛とうがらし˝金丸佐佑子(平成24年10月)
|
地獄蒸し工房 鉄輪
地獄蒸しを体験する金丸先生
食材例
園上重一さん(左)と「かまのばんにん」
かまのばんにん
|