バシャバシャと水しぶきをあげ、豊後水道の冷たい海風の中、沖合のいけすの中で餌を求め勢いよく海面を飛び跳ねる養殖ブリ。その名も「かぼすブリ」。大分の新しいブランド魚として全国で売り出されています。
今回は豊後水道に面した臼杵市佐志生地区で生産されている「かぼすブリ」を紹介します。
大分県はブリ養殖が盛んで全国3位の生産量を誇っています。臼杵市や津久見市、佐伯市で生産されるブリは、豊後水道の恵まれた環境で育てられ、身が締まって脂ののりが良いと言われ、「豊の活ぶり」として有名です。
大分県ではブランド化を図るため、農林水産研究指導センターで研究を進め、養殖ブリの餌にカボス果汁を添加する方法が開発されました。その結果、カボスに含まれるポリフェノールやビタミンCなどの抗酸化作用により変色を抑え、さっぱりと臭みの少ない肉質になることが分かったのです。
養殖ブリ、カボス共に大分県を代表する特産品による、まさに「ハイブリッド産品」ともいえます。
取材に伺った臼杵市の重宝(じゅうほう)水産(佐々木兼照代表)では、「かぼすブリ」の旬を迎え、社員の方が朝から慌ただしく作業を始めていました。冷たい海風をものともせず、沖合での投餌や出荷用のかぼすブリを丁寧にいけすから取り出すなど、海と魚の状態を観察しながらの作業が続けられます。
水揚げされた「かぼすブリ」は全身の色つやも美しく、ずっしりとした手ごたえからしまった肉質が伝わってきます。特徴は「さっぱり」「香りよく」「血合い(赤身の部分)が鮮やか」ということで、ブリの刺身が苦手な方でもおいしく食べられるそうです。また、刺身はもちろんですが、ブリしゃぶなどもおすすめとのこと。
坐来大分では12月のメニューで冬限定ブランド「かぼすブリ」をご用意しています。是非ご堪能ください。
■重宝水産(株)代表取締役
佐々木 兼照氏
〒875-0034
大分県臼杵市大字板知屋1-8
TEL.0972-62-3795
〈伝承料理研究家 金丸 佐佑子さんのお話〉
いよいよ師走です。
師走といえば、お歳暮、お歳暮といえば鰤、鰤といえば祖父、私の師走の思い出は祖父と繋がります。当時、家業隆盛だった祖父のもとには沢山のお歳暮が届きました。その沢山の中でも鰤は別格でした。祖父の好物であったことが最大の理由です。鰤が届くと、普段足を踏み入れることなどない台所で足の付いた大きなまな板を出して捌くのです。好物と皆さんご存じですから何匹も届きます。それがまた、祖父の自慢でもあり、嬉しいことでした。それだけが嬉しい理由ではありません。勿論、大好物が一番ですが、鰤は次々と呼び名が変わる出世魚で縁起がよいこと、その縁起を親戚や従業員さんへお裾分けして喜んでもらえることでした。
でも、生意気な私の分析では鰤の届く数は祖父の通知表。一年の総決算の時、商売の結果が最も分かりやすい形であったと思います。
やがて、代替わりして木造家屋はビルに変わりました。台所はキッチンへ、と同時に足付きのまな板も消え、家で鰤を捌くこともなくなりました。これも時代の流れです。
今の私のもとに鰤が一匹届いたとしたら、とても嬉しい思いと当惑、そして気合いを必要とします。刺身、しゃぶしゃぶ、塩焼き、照り焼き、りゅうきゅう、あら炊き等々の料理を想像してワクワク感はしますけれども現実はスーパーのショーケースにきれいに盛りつけられた刺身や料理に応じた切り身を買い求めることの方が多いのです。多分、一般庶民の家庭では手近に利用できる便利さと引き替えにワクワク感は失われたと思います。ただ、私的には祖父にとって別格だった鰤が一般大衆魚と同列に並べられることがやるせないのです。祖父にとって通知表であり、時には表彰状にも等しい鰤ですもの。
大分県は「かぼすブリ」を売り出し中です。味も、見た目も、香りもよしのワンランクアップの鰤の出現で私のやるせなさも消えました。本当に嬉しいことです。感謝です。
「かぼすブリ」を食べる時、私は祖父と会話します。「おじいちゃん、やっぱり鰤だね。目下の我が家はおじいちゃんの時代のような勢いはないけれど、それなりに頑張っているよ。」と。
総合監修
生活工房とうがらし 金丸佐佑子(平成27年12月)
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サバやイワシなどをミンチにした餌に、カボス果汁の液体や粉末を加えます。
漁船からいけすのブリに向かってカボス果汁を加えた餌を与えます。
かぼすブリに傷が付かないよう注意しながら、人力で網を手繰り寄せます。(大変な作業です。)
漁船のいけすから丁寧に取り出します。
水揚げされた直後のかぼすブリ(全身の色つやが美しく鮮やかです。)
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